食べ物があふれる「飽食の時代」といわれる現代。それなのに、いまの20代女性の平均的なエネルギー摂取量が、食料の乏しかった終戦直後の水準を下回る年もあります。
十分に食べているように見えて、必要な栄養が足りていない。この記事では、若い世代に静かに広がる「新型栄養失調」とはどんな状態なのか、そして今のからだが将来の健康や妊娠のしやすさとどうつながっているのかを、データをもとに見ていきます。
この記事のポイント
- 現代は、カロリーも必要な栄養も足りていない「新型栄養失調」が広がっている
- 「一汁三菜」を基本としてきた親世代と、タイパ(時間効率)重視の今の世代とでは、食の前提が大きく異なる
- 若い時期の深刻な栄養不足は、生理不順や将来の妊娠のしやすさ、骨の健康にも関わる
親世代と今の世代で、これだけ違う「食環境」
昭和の後半から平成の初めごろ、日本の食卓では、ご飯・汁物・主菜・副菜をそろえた「一汁三菜」が健康的な食事の基本とされてきました。農林水産省はこの1980(昭和55)年ごろの食事を「日本型食生活」と呼び、栄養バランスの取れたスタイルとして紹介しています。
一方、いまの若い世代を取り巻く環境は大きく変わりました。農林水産省の『食育白書』でも、主食・主菜・副菜をそろえた食事をとる頻度は、若い世代ほど低い傾向が示されています。
| 項目 | 親世代(昭和〜平成初期) | 今の世代(令和) |
|---|---|---|
| 目指す健康像 | 肥満・生活習慣病の予防 | 痩せ願望・タイパ(効率)重視 |
| 食事のスタイル | 主食・主菜・副菜がそろった食卓 | 単品食べ(丼・パンのみ)・個食 |
| 主な栄養の課題 | 塩分過多・コレステロールの抑制 | エネルギー不足・必要な栄養素の不足 |
共働きや単身世帯が当たり前になり、スマホひとつで24時間いつでも情報や娯楽にアクセスできる時代。仕事や趣味、SNSに時間を取られ、自炊に手をかける余裕がないなかで、パンやパスタ、ゼリー飲料などの「単品食べ」で食事を済ませてしまう場面が増えています。
食べているのに栄養不足?「新型栄養失調」とは
「毎日おなかいっぱい食べているから大丈夫」とは限りません。ここに「新型栄養失調」の落とし穴があります。
新型栄養失調とは、カロリー(糖質や脂質)は足りているのに、からだを健やかに保つためのタンパク質・ビタミン・ミネラルが大きく不足している状態を指します。コンビニの菓子パンやファストフード、パスタなどは手軽におなかを満たせる一方で、筋肉や血液、ホルモンの材料になるタンパク質や微量栄養素(鉄・亜鉛・葉酸・カルシウムなどのビタミン・ミネラル類)は不足しがちです。
実際、厚生労働省の『国民健康・栄養調査』では、20代女性の平均エネルギー摂取量が、食料の乏しかった終戦直後の水準を下回る年も報告されています。また同調査では、20代女性の鉄やカルシウムなどの摂取量が、目標量を下回る傾向も示されています。見た目は細くスタイルよく見えても、中身は深刻な栄養不足、というケースは少なくありません。
見えないところで削られる、将来の健康
若い時期の栄養不足は、「疲れやすい」「肌が荒れる」といった一時的な不調にとどまりません。からだは栄養が足りなくなると「生命の維持」を最優先にするため、今すぐ生きるのに必要でない機能への栄養は後回しにされます。その結果、次のような変化が連鎖的に起こり得ます。
- ホルモンバランスの乱れによる生理不順や無月経
- 卵子の質への影響や、将来の妊娠のしやすさへの影響
- 若いうちからの骨粗鬆症のリスク(骨密度の土台は20代までに決まるとされます)
日本学術会議も、2020年8月の提言「生活習慣病予防のための良好な成育環境・生活習慣の確保に係る基盤づくりと教育の重要性」のなかで、若年女性の「やせ」や低栄養が、本人の健康だけでなく、将来生まれてくる子どもが低出生体重(2,500g未満)で生まれるリスクや、その子が成人後に生活習慣病を発症するリスクにも関わりうると指摘しています。
【例外】自炊派でも要注意。「ヘルシーすぎる食事」の盲点
油を極端に避けた野菜中心の「ヘルシーすぎる食事」も、エネルギーや脂質の不足につながることがあります。
脂質やコレステロールは、女性ホルモンをつくる大切な原料です。丁寧で健康的に見える食生活が、実はからだを飢餓状態に近づけ、生理不順を招いているケースも珍しくありません。
アドバイスよりも、まず「理解」から
心配なあまり「もっとちゃんと食べて」「一汁三菜を心がけて」と言いたくなるかもしれません。ただ、前の世代の常識をそのまま伝えることは、忙しい毎日を送る本人にとって、かえってプレッシャーになることもあります。
まずできるのは、アドバイスよりも「今の若い世代のからだは、環境によって栄養が届きにくなっている」という事実を知っておくこと。
「最近忙しそうだけど、ちゃんと食べてる?」「たまにおいしいものを食べに行こうか」──。
そんな小さな一言や誘いが、不足しがちな栄養をそっと補う支えになります。今のからだを整えることは、これからの健康の選択肢を広げる一歩でもあります。
参考・出典
- 厚生労働省「国民健康・栄養調査結果の概要(令和元年)」
- 農林水産省「『日本型食生活』について」
- 『食育白書』
- 農林水産省「特集 若い世代を中心とした食育の推進」
- 農林水産省「若い世代の食事習慣に関する調査結果の概要」
